「スキルは教えた。ロープレもやった。なのになぜ成果が出ないのか」——こう悩む営業マネージャーは少なくありません。
その答えは、育成の「土台」が抜けているからです。営業としての技術や知識は、実は基礎のほんの一部に過ぎません。基礎の大部分を占めているのは、「営業思考の醸成」と「組織風土への染まり方」という定性的な要素です。
この土台がない状態でスキルを積んでも、成長は脆いものになります。慣れだけで動く営業は、環境が変われば通用しなくなります。継続的な成果を出すには、思考と風土が先に育っていなければなりません。
本記事では、前回の記事「営業を科学するとは?」で提唱した育成の2層構造をさらに深掘りし、「基礎の因数分解」と「マネージャーによるフェーズ見極め」という視点から解説します。
目次
「基礎」を因数分解すると見えてくること
営業の「基礎」と聞くと、多くの人はヒアリングスキル・提案力・クロージングといった技術的な要素を思い浮かべます。しかしこれらは、基礎の中でも「表層にある一部」に過ぎません。
基礎を因数分解すると、実は定性的な要素が大部分を占めています。
定性面の土台がない状態でいくら技術を積んでも、成長は脆いものになります。うまくいっているときは動けても、壁にぶつかったとき・環境が変わったときに崩れてしまう。それは「慣れ」で動いているに過ぎないからです。継続して成果を出せる営業は、必ず定性面の土台が先に育っています。
営業思考の醸成とは何か
「営業思考」とは、「なぜ自分は営業をするのか」「顧客にとっての本当の価値は何か」を自分の言葉で語れる状態のことです。これは研修で教えられるものではなく、日々の経験と内省を通じて醸成されるものです。
営業思考が育っていない状態のサイン
・失注したとき「相手が悪かった」「タイミングが悪かった」で終わる
・商談の振り返りを聞いても「なんとなくうまくいかなかった」しか言えない
・顧客の課題より自社商品の説明に時間をかけてしまう
これらは技術の問題ではなく、「なぜ・何のために」という思考の問題です。ここを飛ばしてスキルを教えても、応用が効かない営業になります。
営業思考を醸成するマネージャーの関わり方
営業思考は「教える」ものではなく「問いかけによって引き出す」ものです。1on1での問いかけ例として以下が有効です。
🔬 営業思考を引き出す問いかけ例
「今週の商談で、顧客が本当に解決したかった課題は何だと思う?」
→商品説明から顧客視点へ思考を転換させる
「失注した理由を3つ挙げるとしたら?」
→他責思考から自己分析の習慣へ
「もし自分がその顧客の立場だったら、この提案を受け入れる?」
→顧客の立場で考える視点を育てる
組織風土への染まり方が育成の土台になる理由
「組織風土」は、会社ごとに異なります。大切にしている価値観・行動基準・顧客への向き合い方——これらはどの会社でも共通ではなく、その会社固有の文化です。
新人がこの風土に染まれているかどうかは、育成の成否を大きく左右します。なぜなら、風土に染まっていない人間がいくら技術を磨いても、組織の方向性とズレた成果しか生まれないからです。
| 風土に染まれている状態 | 風土に染まれていない状態 |
|---|---|
| 会社の価値観を自分の言葉で語れる | 会社の方針を「ルール」としてこなしている |
| 判断に迷ったとき「うちらしいか」で考えられる | 判断に迷ったとき「バレなければいい」になりやすい |
| チームの成功を自分のことのように喜べる | 自分の数字だけを気にしている |
| 困ったとき自然にチームに相談できる | ひとりで抱え込むか、すぐ諦める |
風土への染まり方は、入社後3ヶ月が最も重要です。この時期にどれだけ「この会社らしい考え方・動き方」に触れられるかが、その後の成長の土台を決めます。マネージャーが意識的に「うちの会社はこういう場面でこう動く」という具体的な行動事例を見せ続けることが、最も効果的な風土教育です。
マネージャーが「フェーズ」を見極めることの重要性
育成において、マネージャーが最も重要なスキルの一つが「担当者が今どのフェーズにいるかを正確に見極める力」です。
新人や営業経験が少ない人は、自分が今どの段階にいるかを自分では切り分けられません。「できているつもり」でできていないこともあれば、「まだ自分には無理」と思い込んでいるのに実は次のステップに進める状態のこともあります。だからこそ、客観的に見極めるのはマネージャーの仕事です。
適切なフェーズ設定とは、「少し背伸びをすればできる」レベルの目標を、担当者一人ひとりに合わせて設定することです。これが最も成長スピードを上げ、モチベーションを維持します。
フェーズを見極めるための観点
定性面のフェーズ:思考と風土
「営業思考が芽生えているか」「組織の価値観を自分の言葉で語れるか」——ここが育っていなければ、技術の話は後回しにすべきです。定性面のフェーズが土台になります。
定量面のフェーズ:スキルと知識
スキルシートのLv.1〜4で現状を数値化します。「ヒアリングはLv.2、クロージングはLv.1」という把握ができれば、「次に伸ばすべきはクロージング」という判断が科学的にできます。
自己認識のフェーズ:本人の理解と一致しているか
マネージャーが見ているフェーズと、担当者本人の自己認識がズレていないかを確認します。「自分は今どのフェーズだと思う?」と問いかけ、ズレがある場合はその認識を合わせることから育成が始まります。
育成が機能している組織の「3つの状態」
育成設計が正しく機能している組織には、共通する3つの状態があります。これは育成の「到達点」であり、組織の健全度を測る指標でもあります。
状態① 担当者が自分のフェーズを言える
「自分は今、基礎の定性面を固めているフェーズで、営業思考はできてきたが組織の価値観をまだ完全には体現できていない」——このレベルで自分の現在地を語れる担当者が育っているかどうかが、組織の育成力を示します。自己認識ができている人は、自律的に次のアクションを考えられます。
状態② マネージャーが全員の現状と次のステップを把握できている
「Aさんは定性面の土台ができてきたので今週からスキル習得フェーズへ、Bさんはまだ組織風土への染まりが薄いので価値観の対話を続ける」——全員に対してこのレベルの把握ができているマネージャーがいる組織は、育成のスピードが明らかに違います。
状態③ 人事評価に自信を持って説明できる
フェーズの把握とスキルシートの数値化ができていれば、「なぜこの評価なのか」を担当者に具体的なデータと言葉で説明できます。評価の納得感は、担当者のモチベーションと組織への信頼に直結します。「なんとなくこの評価」では、優秀な人ほど離れていきます。
これらの状態は、ある日突然実現するものではありません。日々の1on1・週次レビュー・スキルシートの更新という小さな積み上げの先にある状態です。「今日の1on1で担当者は自分のフェーズを言えたか」という問いをマネージャーが持ち続けることが、組織をこの状態へ近づけます。
Piece Inでできること
「営業思考の醸成から始める育成設計を作りたい」「担当者のフェーズを正確に把握できる仕組みが欲しい」——そういったご相談に、Piece Inは以下の形でお応えします。
① 定性面を含む現状診断(営業スキルシート)
技術スキルだけでなく、セルフPDCA・思考力・組織への貢献度など定性的な要素を含む80以上の指標で現状を可視化します。「どの担当者がどのフェーズにいるか」をデータで把握する出発点になります。
② フェーズ設計と育成計画の構築
定性面(思考・風土)→定量面(スキル・知識)という順番を踏まえたフェーズ別の育成設計を作ります。マネージャーが「今この人に何をすべきか」を迷わず判断できる基準を整備します。
③ マネージャー育成・1on1設計の支援
フェーズを見極め・営業思考を引き出す問いかけができるマネージャーを育てます。1on1の型・週次レビューの設計・人事評価への連携方法まで、現場で使える形でご提供します。
まとめ
新人営業の戦力化スピードを決めるのは、技術ではなく「基礎の土台にある定性面が育っているかどうか」です。
- 基礎の大部分は定性面——「営業思考の醸成」と「組織風土への染まり方」が土台になる。
- この土台がない状態でスキルを積んでも、慣れで動く脆い営業になる。
- 新人は自分のフェーズを切り分けられない——見極めはマネージャーの最重要スキル。
- フェーズを誤ると「先過ぎる目標」か「もうできてる目標」になりモチベーションを損なう。
- 育成が機能している組織では、担当者が自分のフェーズを言え・マネージャーが全員の現状と次を把握し・人事評価に自信を持って説明できる。
「営業を科学する」とは、数字やスキルだけを管理することではありません。見えにくい定性面にこそ目を向け、一人ひとりのフェーズを正確に把握して育成し続けること——これが、3ヶ月で戦力化する組織と1年かかる組織を分ける、本質的な差です。
営業育成に関するさらに詳しい情報は、Piece In公式サイトもあわせてご覧ください。
📚 シリーズ記事
第1回:営業を科学するとは?キーエンス流「データ×再現性」で属人化を解消し、チームを変える方法
第2回:新人営業が3ヶ月で戦力化する組織と1年かかる組織の違い(本記事)
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Piece Inは、元キーエンス日本一の責任者が立ち上げた営業支援コンサルティング会社です。
定性面の診断から、フェーズ別育成設計の構築まで、
現場に入り込んで一気通貫でご支援します。
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